2015年1月4日日曜日

  1961.10.23  ウィーン国立オペラ劇場
 運命の力 
  <私と音楽の出合い…生涯最高のオペラ>
作曲ヴェルディ
配役・プログラム

出演者:

レオノ―ラ: アントニエッタ・ステラ

ドン・アルバーロ: ジェームス・マクラケン

ドン・カルロ: コスタス・パカリス

プレツィオシルラ: ビゼルカ・クヴェリック

我が生涯最良の記念日であった。 この日、私の頭上に、心に、ミューゼの神が宿ったからだ。

日本出発前に、当時日本モーツアルト協会会長だった属啓成さんの自宅にお邪魔し、「ウィーンに行くので、モーツアルトの足跡を辿りたいが如何すべきか」を尋ねた。ピアノが2台ならぶ部屋で、親切な応対を受け、お話を伺った。そしてウィーン滞在中の黒沢氏(ヴィオリニスト)を尋ねるようご指示を頂いた。

ウィーンに到着すると、すでに連絡が届いていて、黒沢さんには前夜から付き合っていただいた。音楽家の集まるバーで、翌日のオペラ「運命の力」の筋や聴きどころを教えてもらった。黒沢さんが何者であるかはまったく知らない(いまでも)が、酒の席上ヴァイオリンをとりだして弾きはじめヤンヤの喝さいを浴びた。優れた演奏であり、驚いた。
察するに、留学中のプロの演奏家だったのかもしれない。

レオノ―ラ:ステラ
さて、オペラ当日は、繰り返すが、我が生涯最良の日であった。何故なら音楽の奥深さの一端に触れたからである。爾来私は音の響き、輝き、感情の虜と化したと思っている。
(8日前に、歌劇「カルメン」を見ていた。しかしこんな感慨は起きなかったのに!)

ウィーンは、湿度が低い。そのためか多湿な日本と響きが違う。小さな音がホールの隅々まで伝わる。高音はあくまで高く、低音は上品に伝わる。この日は2階席で、舞台からはかなりの距離があったが、床にピン一つ落ちても聴き分ける事が出来るように感じた。

オペラのあらゆる場面が感動の対象となり、我を忘れたが、現在も鮮明に思いだせる場面と音楽の旋律がある・・・

開幕前、序曲が奏される。金管のホ音の強烈な響きは暗い運命を予感させ暗示する。つづく弦が奏でる不安げな旋律に息をのむ。そして幕があがる番。(私はこの序曲がオペラ序曲で一番好きだ。オペラ全幕の推移を如実に表現している)

終幕でレオノ―ラが恋人カルロの銃弾に倒れ、息絶え絶えの時、最後の力を振り絞り「神よ、平和をあたえ給え」を唄う。まさに断末魔の声として声量が小さくなってゆくが、音声は澄みわたり、私の心に入ってくる。唖然として聴く。素晴らしい!
天からの啓示が私の身に降りた・・・<音楽は人生最高の啓示たり得ると>


愛聴盤 運命の力
 LONDON SLX4-2(LP)プラデルデイ指揮 ローマ聖チェチリア管弦楽団
レオノ―ラ:デヴァルディ
アルヴァーロ:マリオ・デル・モナコ